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【記事】アマゾンは音声認識で何を企んでいるのか IoT時代のプラットフォームとは?

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アマゾンは音声認識で何を企んでいるのか

「Amazon Echo(アマゾン・エコー)」

元記事はこちら。

世界ではスマホの次のプラットフォームが登場中!? アマゾンが、家庭で、職場で、街で描き変えようとしている未来予想図とは。 

ゲームのルールの変化に注目せよ

国内外のビジネススクールにおける主要テーマのひとつは「ゲームのルールが変わる」ことである。ルールが変わると、新たな市場やビジネスが創造されるのとともに、それまでのビジネスプロセスや秩序までもが破壊され、既存の商品・サービスが一気に陳腐化する。こうした現象はこれまで何度も観察されてきた。たとえば携帯電話で「ガラケーからスマホへ」という変化が起きたときには、時計・電卓・デジタルカメラ・携帯音楽プレイヤー・スケジュール帳などに関わる多くの企業が、市場からの撤退を余儀なくされた。

筆者は、2017年2月11日から2月26日までの16日間、米国出張を行った。その際に目の当たりにした「ゲームのルールが変わる」ことについて、ストラテジー&マーケティングの視点から考察していきたい。

スマホに次ぐプラットフォーム、米国で500万台以上が販売完了

筆者が2月の米国出張で注目したのは、「Amazon Echo(アマゾン・エコー)」というスピーカーである。これは2015年に通販大手のアマゾンが米国で発売したもので、最大の特徴はアマゾンの音声認識AIである「Alexa(アレクサ)」を搭載している点にある。このため筒型のスピーカーに対して「ただ話しかけるだけ」で操作が完了する。「ただ話しかけるだけ」で、質問に答え、音楽を流し、アマゾンでの買い物を行い、対応するIoT家電を操作してくれるのだ。この簡便さが消費者に受け入れられ、すでに500万台以上が販売され、2016年にはクリスマス・年末商戦の幕開けとなるイベントである「ブラックフライデー」で売れ筋商品になったことでも注目を集めた。

筆者は、アマゾン・エコーはIoT時代のプラットフォームになる商品だとみている。その理由は、「スキル」という拡張機能を備えているからだ。これは、アマゾンで取り扱っている商品だけでなく、提携企業の商品・サービスと連携する機能で、すでにスターバックスやウーバーなどがサービスを開始している。これまでに提供された「スキル」は9000以上になるという。

アマゾンは「アマゾン・エコーはアレクサ搭載商品の第1弾に過ぎない」と発表している。アレクサを搭載すれば、アマゾン・エコーのように「ただ話しかけるだけ」で操作を完了できる。現在、多くの企業がアレクサを搭載した家電商品を計画している。米国最大の家電ショーであるCESにおいては、アレクサが搭載されたIoT家電が約700も出展された。アマゾン・エコーはスマホの次のプラットフォームというだけでなく、IoT時代のプラットフォームとして、すでに競合より一歩進んだ地位を固めている状況にあるのだ。

アマゾン・エコーがIoT時代のプラットフォームになる理由

電子デバイスを搭載したIoT家電が増えるなかで、スマホ各社はスマホをIoT時代のプラットフォームにしようと腐心してきた。もっとも、その努力は、これまで徒労に終わってきた。これに対して、筆者が「アマゾン・エコーはIoT時代のプラットフォームになる」と予測する理由は、消費者の本能的なニーズをとらえた商品だからだ。

これまでのスマホでは、家庭にIoT家電が置かれていたとしても、家庭のなかでスマホを持ち歩き、さらにはスマホでIoT家電を操作しようと思う消費者は少なかった。なぜなら、操作自体が面倒だからだ。これに対してアマゾン・エコーは「ただ話しかけるだけ」で操作が完了する。アマゾン・エコーはキッチンに置かれることが多いという。料理で両手がふさがっているときに、「ただ話しかけるだけ」で操作できることの利便性は大きい。

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筆者は、AIやIoT時代におけるイノベーションとは、人間の本能的な動きや欲望を忠実に製品化しようとする試みではないかと考えている。このような意味においても、家の中での最も一般的なコミュニケーション方法である「ただ話しかけるだけ」という簡便な操作性は消費者の本能的なニーズに合致したものであると考えられる。

出張時には、「アマゾン・エコーは自宅での会話を一体どこまで聞いているのか?」ということを指摘する米国人の声を多く耳にした。アマゾンがアマゾン・エコーから吸い上げた音声データを、どこまでどのようにビジネスに活用しているのかは、多くの利用者の気になるところのようだ。「近未来のスパイ映画のシーンが、すでに自宅で再現されているのがアマゾン・エコー」という発言もあった。ただ話しかけるだけという簡便性ともあわせて、アマゾン・エコーが普段の生活を大きく変えてしまう可能性を感じているのだと思った。

筆者は現在、アマゾンの別の取り組みにも注目している。それは無人コンビニエンス・ストアである「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」である。アマゾン・ゴーの店内には、どこにもレジがない。代わりにあるのは自動改札機によるゲートである。客は入店時にゲートでスマホをかざす。その後は欲しい商品を手に取るだけでアプリ上のカートに記録され、店舗を出るだけで決済が自動で終了する。このためレジで行列する必要はない。

アマゾン・ゴーには最新のカメラやマイクが具備されている。もっとも、ここで見逃せないのは、この無人店舗には、クラウドコンピューティング、音声認識システム、AI、ロジスティックのノウハウなど、これまでアマゾンがさまざまな事業で蓄積してきた知見が結集されていることである。

アマゾン・ゴーの店舗展開については、Wall Street JournalやBusiness Insiderが2000店舗規模の展開を計画していると報じている。アマゾンはこの報道を正式に否定しているが、米国では、同社がリアル店舗の展開を本格化していくうえで、アマゾン・ゴーがきっかけになるのではないかとみる向きが多い。なかには「他の小売会社に店舗システムを販売していくのではないか」という声も聞かれた。小売業界では脅威として受け止められているようだ。

アマゾンが思い描く未来

筆者がもっとも強く感じたのは、アマゾンはこのビジネスモデルを小売店舗への活用だけにとどめずに、広く工場、倉庫、ホテル、オフィス等のワークプレイス、さらには街全体のエコシステムにまで浸透させていこうとしているのではないかということであった。

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アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾスは、「シックスシグマ」のような精緻な経営管理や膨大に蓄積されたビッグデータ分析などロジカルな経営で有名な創業者である。その一方で、ベゾスは、未来志向や創造力に長けた人物でもあり、特に未来をリアルに現実として鮮明にイメージすることで事業展開を行ってきたことでも知られている。書籍から事業をスタートさせたのも、インターネット通販で最初に定着する商品と仕組みをリアルかつ鮮明にイメージしたことがきっかけだった。

そのベゾスに対して筆者が注目してきたのは、「街創りとはトップダウンで計画的に実行するだけではなく、そこに住む人がもっと楽しくワクワクするようなものであるべき」という発言である。アマゾン・エコーは、人と人とのコミュニケーションの中核は話すことであるという本質を捉えたことが成功要因となっている。ベゾスは明確にスマートシティーのような街創りにまで事業展開を志向していること、そしてそれは人々が楽しくワクワクするようなものでないと決して広がらないと認識しているのだ。

筆者が考える「アマゾンが思い描く未来」には、以下のようなものが指摘できる。アマゾン・エコーやアマゾン・アレクサ、そしてアマゾンの包括的なエコシステムが、自宅、小売店舗、工場、倉庫、ホテル、オフィス、さらには街全体のプラットフォームとなること。そして、そのプラットフォームを通じて膨大なビッグデータを集積しビジネス展開していること。すでに「世界の小売業ランキング2017」でトップ10にランクインしている小売業においてもマーケットリーダーとなること。

サービス提供者側の論理だけにとどまらず本当に消費者に対して楽しくワクワクするような経験価値を提供することができたなら、人間の本能的な動きや欲望を忠実に製品化できたなら、アマゾンの思い描く未来の実現可能性は高まっていくのではないだろうか。スマートホーム、スマートカー、スマートオフィス、さらにはスマートシティーが実現していくなかで自分や自分の会社はどのような立場でそれらに取り組んでいくべきなのか。ただ単にアマゾンを傍観していてはならないと思うのは筆者だけではあるまい。

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田中道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。
http://www.rikkyo.ac.jp/sindaigakuin/bizsite/professor/ 

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