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【記事】医療カウンセラーよりAIがいい!? 機械相手だと話しやすい理由とは

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Ai20170429 01

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日々新たなニュースが発信され、研究に役立つ高度なツールの開発も進む脳神経研究の世界。AI(人工知能)の台頭で人とコンピューターが共存する時代には、人間らしいあり方や役割についての新たな価値観の醸成も求められる。将来、研究者を目指す中高生向けの単行本『いのちの不思議を考えよう(3) 脳の神秘を探ってみよう 生命科学者21人の特別授業』では、佐倉統(東京大学大学院情報学環教授)さんと、池谷裕二(東京大学大学院薬学系研究科薬品作用学教室教授)さんの2人の脳科学者に、医学・生理学から工学、物理、哲学的見地まで広範に及ぶ脳研究の道の将来について語ってもらった。

■共感や恋愛感情は人間だけの脳の働き?

――脳科学のさまざまな研究分野の中でも、お二人が特に興味があるのはどんなことですか?

池谷裕二:人間にしかない脳の機能、「人らしさ」とは何だろうということを常々考えています。人にしかないと思われている脳の働きには直感やひらめき、共感といったものがありますが、共感とは、相手の心理と同じ状態になることです。これは本当に人間にしかないかというと、実はマウスにもあるんです。マウスに電気ショックを与えると、フリーズしたように身動きせず固まってしまいますが、2匹のマウスがいて1匹だけに電気ショックを与えると、もう1匹も同じように動かなくなる。「相手と同じ状態になる」共感が起きています。

ただ、これは電気ショックを受けて危険を感じたマウスが、天敵が現れたときに見つからないようにするのと同じように、動きを止めて血の気を消したのを見て、もう1匹も同じ行動をとったのです。マウスは集団で生息するので、1匹がフリーズしたら「何か危険があるぞ」とほかの個体も一斉にフリーズするのが群れ全体で身を守る知恵なのです。共感というと私たちは、「人の気持ちが分かる」「思いやりがある」と温かみのある特別なものと思いがちですが、実際には、命をかけた動物たちの闘いの一環。困っている人を助けたいといった同情や慈悲の心とは違うんですね。

佐倉統:人間ならではとされる温かみのある特性や独自性も、進化をさかのぼれば動物など人間以外の生き物たちにその萌芽(ほうが)があり、何らかの転用を経て人間に備わってきたということですね。

私も、もともと大学院でサルの生態を研究していたこともあり、動物・生物を知ることで人間の独自性を見いだしていくのが好きですね。今は科学技術と社会の関係を研究していますが、きっかけは、サルに対するとらえ方が日本と欧米の研究者で大きく違っていたことでした。日本はもともと、サルとなじみが深いので、研究の場でも名前をつけたりして擬人的に扱いますが、アメリカでは以前は「そんなのは非科学的だよ」と、番号で管理して非常に淡々としていました。そうしたアプローチの違いが面白くて、サルの研究がいつしか「サルの研究者の研究」をするように。そこから発展して、社会と科学の関係、たとえば脳と社会の関係などを扱うようになりました。

――共感のように人間ならではと思われるものの原型が動物にあるとしたら、「恋愛」はどうでしょうか? 動物もフェロモンを分泌して異性の気を引いたりしますが、これは動物にとっての恋愛といえますか。

池谷:特定の相手にぞっこんになったりするのは人間だけで、動物は違うかもしれないですよ。というのも、交尾中など恋愛のような活動をしているサルの脳と、恋愛中の人間の脳のMRI画像はまったく違っていて、恋愛中の脳の画像は、親ザルが子どもを守っているときと似ているんです。だから私は、恋愛というのは動物の親が持つ子に対する脳の働きが、何らかの作用で赤の他人に向かってしまったものではないかと思っています。愛情ホルモンといわれるオキシトシンの分泌の様子も、動物の子育てと似ています。

佐倉:オキシトシンは、プレーリーハタネズミなど一夫一婦型の動物は、そうでない種よりも活発に分泌されますね。つまりはネズミでも、子に対する愛情と異性に対するそれの根底に共通点があって、それが原型となって人間の恋愛へと変化したのかもしれませんね。

■ちょっと意外? AIにはない人間らしい特性とは

佐倉:動物・生物の中で人間というものをとらえるだけでなく、今や比較対象はロボットやコンピューター、AIにまで広がっています。2016年には、韓国の囲碁棋士のイ・セドルが、囲碁のAI「アルファ碁」と対戦して負けてしまいました。このときイ・セドルは「実力では負けたと思っていないが、体力や集中力ではかなわなかった」という旨の発言をしましたが、この一件で、囲碁は先の手をどこまで読めるかといった知能勝負のようでいて、持久力や休憩のとり方、ひいては相手との会話やダメージの与え方など、知能以外の要素も重要なのだということが見えてきました。とても面白いできごとでした。

池谷:AIと人間の違いは、長時間の対局でもパフォーマンスを維持できるなど、AIは疲弊しないし、判定の安定性が高いことがあります。「ネイチャー」の論文(2017年1月25日)によると、スタンフォード大学の研究グループが、AIにほくろと皮膚がんを画像から見分けさせたところ、医師並みの高い精度で判定に成功したそうです。何万件もの画像のほとんどがほくろで、皮膚がんはわずかしかない場合、人間はがんを見逃してしまいがちです。

佐倉:では、人間ならではのものとは何だと思いますか。やはり思いやりなどの温かみのあることだろうと考えがちですが。

池谷:温かみのあるようなこともAIには意外に簡単にできて、人間より優れていることも多々あります。カウンセリングなど悩みを聞いて助言するようなことは無理だろうと思っても、アメリカの医療の現場では、生身のカウンセラーではなくAIに相談したい人が出てきているといいます。AIは集中力が強いしイライラしたりしないので、話を聞きながら時間を気にして時計を見てばかりなんていうことがないし、機械相手だと話しやすいのでしょうね。生身の人間が相手だと、気後れしたり体面を気にしたりして、心の内をさらけ出せないこともありますから。

佐倉:温かみが人間らしさとは限らないとなると、人の特長とはどんなことになりますか。

池谷:ついイライラしたり、うっかりミスをしてしまったり、そんな不安定で不完全な面こそが人間らしさなのかもしれません。「判断が遅い」というのもあるでしょう。フランスのトゥールーズ第一キャピトル大学経済大学院とアメリカのオレゴン大学、マサチューセッツ工科大学の研究者が共同で、AIによる完全自動運転車について意識調査を行いました。事故の際に救うことのできる搭乗者と歩行者の数などが異なる複数のシナリオを提示して、自動運転車に求める性能をたずねたもので、大勢を救える代わりによけた先にいる一人を犠牲にしてもいいか、歩行者を救うために運転者に自己犠牲を強いるかといった、いわゆるトロリージレンマの問題です。「サイエンス」(2016年6月24日)で発表された結果は、理性では大勢を救える功利的な車に賛成だが、自分が乗るなら自己防衛的にプログラムされた車がよいというものでした。人間は自己の中にこうした乖離(かいり)や矛盾を抱えた生き物で、大勢を救えたとしても自動運転で犠牲が出ることに抵抗があるのは、「悩む時間がない」からだと思います。“苦渋の決断”まで悶々とする時間が人間には必要で、瞬時にハンドルを切ってしまうAI車には温かみが感じられないのです。高速処理のコンピューター制御ではなく、脳内のタンパク質やイオンの流れで処理する時間スケールに人間がいる以上、この差は埋まらないのかもしれません。

佐倉:結果は同じでも、そこに至る過程でどれだけ悩んだかによって結果の受け入れ方が変わったり、大量生産より手間をかけた手づくりの伝統工芸品をありがたがったりして、人間は「時間をかける」ことをよしとする傾向ですね。非効率的でミスも多い人間がAIと共存していくには、ものごとの見方や価値観など、これまでとは違う尺度の新たな価値観を見つけていく必要があるでしょうね。

佐倉統/東京大学 大学院情報学環 教授・学環長
1960年、東京都生まれ。京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。科学技術を人間の長い進化の視点から位置づけていくために、進化生物学の理論を軸に、生物学史、科学技術論、科学コミュニケーション論などを渉猟して現代社会と科学技術の関係を探る。著書に『現代思想としての環境問題』『進化論の挑戦』など

池谷裕二/東京大学 大学院薬学系研究科 薬品作用学教室 教授
1970年、静岡県生まれ。東京大学大学院薬学系研究科修了。薬学博士。神経科学および薬理学を専門とし、海馬や大脳皮質の可塑性を研究。最新の脳科学の知見を出し惜しみせず、分かりやすく伝える。『海馬』(糸井重里氏との共著)、『のうだま』(上大岡トメ氏との共著)、『単純な脳、複雑な「私」』など著書多数 

 

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