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【記事】現在のAIは人工知能ではなく「Amazing Innovation」でしかない

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現在のAIは人工知能ではなく「Amazing Innovation」でしかない

元記事はこちら。

機械学習やAI(人工知能)に対する関心は高まるばかりだが、現在のAI関連プロジェクトの多くが、初期段階でコストがかかりすぎる、データが不足している、スキルを持った人材がいないなど、大きな困難に直面しているのも事実だ。そもそもAIや機械学習とはいかなるものなのか、現在のテクノロジーの限界はどこにあるか、成功を掴むために組織がすべきことは何か――。ガートナーのリサーチ部門でデータ・サイエンスや機械学習、高度アルゴリズムを専門とするバイスプレジデントのアレクサンダー・リンデン氏が解説した。

AIは人間のように思考するわけではない

ガートナーは特定テクノロジーを評価する指標として、期待度の変化を時系列で捉えるハイプサイクルを示している。だが、AI(人工知能)については、このハイプサイクルに当てはめて語ることができないという。

その理由について、ガートナーリサーチのアレクサンダー・リンデン氏は、「AIの本質は、最近まで人間によってしか解決できなかった複合的なタスクを同等もしくはそれ以上に解決する機械の能力にあり、あくまでも社会技術的な構成概念であるからだ」と説明する。

このAIのメガトレンドの中で、問題解決のパラダイム・シフトを起こしているのが機械学習である。リンデン氏は「昔ながらのエンジニアリングでは問題を小さな単位に分解して理解し、それらを一つひとつ解決し、最終的にまとめると全体の解になるというアプローチをとってきた。ただ、このやり方では、顧客の離脱防止や不正の検出、故障予知といった現在のビジネスが抱えている課題には対応できない。そうした中で機械学習が注目されはじめた」と語る。

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ガートナーがAIについてのハイプサイクルが作れなかったのには理由がある

実際、このわずか5年ほどで機械学習は劇的な進歩を見せた。きかっけとなったのは、2012年に機械学習の一種のディープラーニング(深層学習)が画像認識において画期的な成果を上げたことである。

「IMAGENET Large Scale Visual Recognition Challenge 2012と呼ばれる画像認識コンテンストにおいて、それまで約30%あたりで推移してきた誤分類率が一気に15%に低下した。その後もディープラーニングは大きく前進し、2014年後半から2016年にかけてマイクロソフトとグーグルのグループが、ついに人間を超える認識レベルを達成した」(リンデン氏)

いまのAIは人工知能というより「Amazing Innovation」の略

ただ、こうした進化を評価する一方で払拭しておかなければならないのが、AIに対するさまざまな誤解である。リンデン氏は、次のように訴える。

「AIは人間のように思考するわけではない。『AIはわれわれの仕事の85%を奪うか、われわれすべてを殺す』といった懸念が広がっているが、これは大きな誤りだ。どんなテクノロジーも人間の代わりになれるわけではない。バイドゥの人工知能研究所長であるアンドリュー・ング氏による『キラー・ロボットの台頭を恐れることは、 火星の人口過剰を心配するようなものだ』という認識こそが正しい」(リンデン氏)

そもそも我々は、いまだに脳の一部しか理解できていないのだ。リンデン氏は、「もし人間の脳が非常に単純で、われわれが脳を理解できるとすれば、われわれは非常に単純であり、脳を理解することはできない」というIBMトーマスワトソン研究所のシニア研究員であったエマーソン・プー氏の言葉を引用する。

そして、「いまのAIは人工知能というよりも、Amazing Innovation(驚くべきイノベーション)の略と捉えるべきと考える。広範囲にわたる問題に対応できる汎用的なAIは20年以上も空想のままで、現在実現されているのは特定領域の問題解決のために設計された『狭いAI』に過ぎない」と強調する。

機械学習は問題解決のパラダイムシフトを起こす

機械学習とはいかなるものか、あらためて整理しておきたい。リンデン氏によれば機械学習の核心は、入力/出力のペアから得られる情報をマッピングしてパターン(関数)を作成することにある。

「たとえばローン業務では申請データを入力とし、顧客がローンを返済したかどうかを出力として大量のデータを学習させることで、返済能力を判断できるようになる」とリンデン氏は語る。

そのほかにも需要予測、自律走行車、購入性向、故障予測、顧客の離脱、医療診断、広告などの分野でも機械学習が適用されている。

これらのシーンで機械学習を効果的に活用するためのポイントとして、リンデン氏が挙げるのは大きく2つ。「質問が正しいこと」(出力が正しく定義されること)と「適切なデータを探すこと」だ。

なお、一口に機械学習といってもアンサンブル学習技法、リカレント・ニューラルネット、強化学習などさまざまなアルゴリズムが存在している。先に述べたディープラーニングは、データの中間層を作成することによって機械学習を改善する試みだ。

ではなぜ今、ディープラーニングなのかというと、その処理で必要とされる膨大な計算能力を比較的容易に得られるようになったことが大きい。

昨今、IoTのセンサーによって膨大なデータが生成され、複雑性を増しており、従来型のソフトウェア・エンジニアリングでは問題を解決することが困難となっている。なかでも「大半のデータ要素にはほとんど意味がない」「データソースが多い」「既存の知見はほとんど/まったく利用できない」といった特性を持つアプリケーション領域で最も効果を発揮するのがディープラーニングなのだ。

「ディープラーニングによって何らかの解を導き出すことができれば、それによってまた新たなセンサーを展開し、学習を進めるといった好循環を確立することができる」と強調するリンデン氏は、「2019年までにディープラーニングは、需要/不正/故障検知のためにクラス最高のパフォーマンスを提供するようになる」と見ている。この予測を裏付けるように、実際にPayPalは不正検知にディープラーニングを適用することで、誤報発生率を半減させている。

ディープラーニングに踏み出すのは組織にスキルを蓄積してから

ただし、先述したとおり、我々がいま手にしているのは、あくまでも特定領域の問題解決のために設計された「狭いAI」にすぎない。

そのリスクと限界はしっかり理解しておく必要がある。ディープラーニングを活用する多くのプロジェクトもまだ初期段階で、「コストがかかりすぎる」「ほとんどは単独で行われている」「アジリティとコラボレーションが不十分」「使用されるデータソースは3~4程度」といった課題に直面している。

同様にツールも成熟していない。ユーザーインタフェースが不十分で、それを補う複雑なプログラムを記述しなければならない。コラボレーション機能のほか、プラットフォームを横断したモデル管理の機能も欠けている。すなわち複数のディープラーニングのモデルを連携させようとすると、途端に大きな困難が伴うのが現実だ。

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そこでAIにチャレンジしようとする企業に向けてリンデン氏は、「機械学習をデジタル戦略の一部に組み込むべき」と提言。「たとえば機械学習のエキスパートを組織の内外から探し出し、プロジェクトで連携をとっていく必要がある。特に大企業においては、データ・サイエンス・イニシアティブ(データラボ、COE、CC、チーム)の体制を構築してほしい。これまで優れたソリューションを受け入れることが困難だったならば、その古い企業体質から再考することが重要だ」と説く。

また、機械学習の中でシャローラーニング(浅層学習)と呼ばれる技術も、多くの企業にとって優れた問題解決の手法となることを忘れてはならない。その上で「組織に必要なスキルやノウハウが備わっている場合に限り、ディープラーニングに挑戦するというステップを踏んだほうがよい」とリンデン氏は念を押す。

仮に外部のサービスプロバイダー経由でディープラーニングのAPIやアプリケーションを利用するにしても、ベースとなるスキルが組織に蓄積できていないと的確な評価を行うことができないからだ。

イノベーティブな取り組みであるほど成功の近道はなく、組織の成熟を図りつつ、着実なステップを刻んでいくことが大切である。

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