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【記事】いま人工知能ができること、できないこと

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AIで変わる人間の仕事領域

人工知能

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著者プロフィール:
松尾 豊(まつお・ゆたか)
東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 特任准教授
東京大学大学院工学系研究科電子情報工学博士課程修了。産業技術総合研究所、スタンフォード大学などを経て現職。著書に『人工知能は人間を超えるか』ほか。

脳科学と人工知能(AI)の研究は、歴史的についたり離れたりを繰り返してきました。ニューラルネットワーク(人工神経回路)は人間の神経回路を模してできているといっても、非常に単純化したモデルで、実際にはさまざまなタイプがある神経細胞(ニューロン)の違いを無視してニューラルネットワークと称しています。

脳科学と人工知能の関係は、鳥と飛行機の関係に例えるとわかりやすい。人間は鳥のように飛びたいと思って飛行機をつくりましたが、実際にできた飛行機は、鳥とはまったく別物です。人工知能も、サーバーの台数を増やして高速化すれば、ある面では人間を圧倒的に上回っていきますが、それは人間の脳とは別物です。

IBMのWatson(ワトソン)やソフトバンクのPepper(ペッパー)、アップルのSiri(シリ)などは一見、言葉を理解しているように見えますが、まだ統計的に言語を処理しているだけで、言葉の意味そのものを理解しているわけではありません。「ドラゴンクエスト」のセリフを見て、コンピュータが話していると思う人はほとんどいないと思いますが、原理的にはあれと同じで(もちろん非常に高度な技術にはなっていますが)、応答は人間が決めています。それに対して感情移入してしまうのは、人間が勝手に行間を埋めているからです。

人工知能はディープラーニング(深層学習)技術によってようやく「目」(画像認識)を手に入れ、「手」(ロボティクス)を動かして学習する態勢が整ったところです。人間の赤ん坊と同じように、まず「目」で見て、「手」を動かし、試行錯誤を重ねて概念やルールを学んでいく。「言葉」を理解し、話せるようになるのは、その後です。猫を見たことがないのに、「猫」という言葉を教えても、それが何を意味するか、わかるはずがありません。

では、人工知能が言葉を獲得していけば、最終的に人間のような「感情」や「意識」を持つのでしょうか。喜怒哀楽のような「感情」は、もとをたどれば、すべて自分の生存のために備わってきました。人間は、自分にとってよいことがあればうれしいし、社会性が高い生き物なので、他人が楽しければ自分も楽しい。そのほうが生き残る確率が高かったからそうなっているわけです。それをプログラムで設定すれば、「ロボットにも喜怒哀楽がある」ように見せかけることはできますが、はたしてそうすることに意味があるのでしょうか。男型ロボット、女型ロボットをつくって、男型が女型を、女型が男型を好きになるように設定することはできますが、それは感情とはいえません。

人間は情動によってドーパミンが出て、それが意欲につながっているわけですが、ドーパミンが出なくなると、やる気がなくなって、何もしなくなります。人工知能も「こういう動きをしなさい」という目的を与えれば動きますが、それがなければ何もしないのです。「この仕事をしなさい」といった目的を与えて、それを最大化するようにプログラムすれば、人工知能はさまざまな方法を試します。その過程で、自分と他人という区別をつけたほうが、学習効率が上がるのであれば、そこに「自己」という概念が発生し、自他の区別をしはじめるかもしれません。

2012年以降の人工知能研究によって最も進展があったものの一つが、深層学習による認識と、「探索」や「強化学習」などの従来技術の融合です。強化学習は、機械が試行錯誤を通じて環境に適応していく学習の枠組みですが、深層学習と組み合わせることで、状況を上手に認識した上で上達することが可能になりました。この技術が、イ・セドル九段を破ったアルファ碁にも使われています。人間と違うのは、1回学んだことは忘れないということです。人間のように、そのときの体調や集中力によってミスをしたりはしません。自動運転車が増えれば、人間が運転するより、よほど事故は減るはずです。

自動運転技術が普及すると、自動車産業自体が岐路に立たされます。ほぼ間違いなく起きるのは、自動車は最終製品ではなくなるということです。顧客が求めているのは、自動車ではなく、移動手段。そのためウーバーのような「移動」を提供する会社が、自動車産業をのみ込む可能性が出てきます。

顧客は、ウーバーがどのメーカーの車を使おうが、無人自動車だろうが、あまり気にしない。それどころか、移動さえできれば、「自動車」である必要さえないかもしれません。自動車メーカーは、ウーバーと同じ「移動」を提供するレイヤー(層)のビジネスを取りにいくのか、あるいは、ウーバーが所有する「乗り物」の車両整備というレイヤーを取りにいくのか。自社の事業をどう位置づけるか、どの部分で勝負するのか、あらためて問われることになります。

一方、経営の意思決定のような仕事は今後も残り続けるはずです。ただ、意思決定をサポートする、経営者に対する秘書、弁護士に対するパラリーガル、コンサルタントに対するアシスタントはコンピュータに代替される可能性が高い。資料を集めたり、内容を必要な形に直す技術は、人工知能というよりも検索エンジンといったほうが正確かもしれませんが、領域を拡大していくでしょう。

最近、ニュースで「人工知能」という言葉が取り上げられることが多くなってきました。「人工知能」と聞くと、何か特別なもののように感じますが、実は広い意味ではIT技術の擬人化を指すことも多いです。メディアで「人工知能」という言葉を見たときは、IT技術、例えば検索エンジンでできることを指しているのか、あるいは深層学習など最新の技術によるこれまでにない進展なのかという見方をすると理解しやすいかもしれません。

AIで変わる業界・サービス

(1)医療 

人工知能が診断・治療法を指導

画像認識技術の進展で、X線写真などの検査の結果から診断をくだすAIが登場している。今年8月、東京大学医科学研究所はIBM社のWatsonを使って、60代の女性患者の白血病の病名をわずか10分で見抜き、病名から割り出した適切な治療法によって患者の命を救ったと発表した。

(2)秘書

社長の秘書が全員リストラ

AIによる秘書代行サービスが続々発表されている。米国x.ai社が開発した“Amy”はスケジューリング機能に優れ、候補日や時間帯、場所などを入れれば相手とのやり取りまで代行してくれる。過去のやり取りから学習し、好みのお店や時間帯に合わせることもできるという。

(3)金融

証券アナリストが要らなくなる

超高速取引の拡大や株取引を完全自動化するヘッジファンドが立ち上がるなど、AIの活躍の場は拡大している。米ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントはAIを使って100万本にのぼるアナリストレポートを解析、株価の材料を探るシステムを開発。投資家の期待も高まっている。

(4)セキュリティ

挙動不審で即通報

ディープラーニング技術の進展で、防犯カメラなどの動画分析ができるようになった。NTTコミュニケーションズと綜合警備保障が、監視カメラの映像で通常と異なる動きをする不審者を発見・追跡するシステムの開発を発表。イベントやテロ対策などに応用が期待されている。

(5)自動車

2020年自動運転車が発売

自動車メーカーだけでなく、グーグルやDeNAなどのIT企業も参入する自動運転市場。今年8月には日産自動車が高速道路の同一車線で車間を保ち、渋滞中の発進・停止をアシストする「プロパイロット」を搭載したセレナを発売した。2020年には一般道での自動運転車の投入を予定している。

(6)製造

誰もいない工場が稼働

これまで製造現場では工作機械による自動化が進んできたが、高度な作業を精度高く行うには、熟練した技術者によるチューニングが必要不可欠だった。工作機械大手のファナックはプリファード・ネットワークスと共同で、AIが自身で学習し、最適なプログラミングを書く技術を開発中だ。

(7)教育

先生、教育担当をAIが代行

東京都世田谷区の数学専門塾キュビナアカデミーでは、AI学習システムを搭載したタブレットが先生代わりだ。マツリカが提供する「Senses」は企業の社員教育を人工知能が支援する。適した社内資料や業界ニュースの提供、コミュニケーションの方法まで教えてくれるという。

(8)物流

トラックドライバー大量失業

千葉市幕張新都心で無人飛行機ドローンを宅配サービスに活用する実験が進められている。将来はAIを搭載し、異常事態にドローン自身が対応できる機能を付ける可能性もあるという。倉庫内作業では日立製作所が効率化をAIが算出するシステムを開発。人員の削減が見込まれる。

 

 

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