【記事】AIで働き方が一変!(後編)- 社員の“相棒”になるチャットボット

AIで働き方が一変!

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私たちの働き方を大きく変えるAI――。では、企業はAIをどう活用すればいいのか。2017年、大きく飛躍すると見られているのが、チャットボットの業務活用だ。

(前編はこちら

さて、私たちの働き方を変えるAIは、第3次AIブームのさなかにある。改めてAI関連技術を整理すると、「ルールベース」「従来型機械学習」「ディープラーニング(深層学習)」に大別できる(図表1)。

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1つめのルールベースはIF-THENルールで、ロジックを事前に人間が定義しておき、それに基づいてAIが処理を行う方法だ。2つめの従来型機械学習は、データのどの特徴に注目すれば求めている分析・予測などの結果を導き出せるか、人間がAIに教え込んでおく。すると、それに基づいてAIはデータを処理し、分析・予測結果を返す。そして3つめのディープラーニングは、従来型機械学習がより高度になったもので、人間がAIに、注目すべき特徴を教えなくてもAIが自分で学ぶ。従来型機械学習やディープラーニングは、学習用のデータが多ければ多いほど精度が上がる。

「ディープラーニングの利用範囲はまだ限定的だが、音声・画像認識ではすでに利用され始めている」とNRIのIT基盤イノベーション本部 デジタルビジネス開発部 上級研究員の長谷佳明氏は説明する。

さらに同氏は、2017年に飛躍が期待される技術としてチャットボットを挙げる。

「第3次AIブームの技術革新で自然言語処理が実用レベルに近づきつつあり、AIもある程度の会話ができるようになってきた。それによりチャットボットの利用が広がってきている」

実際、昨年からチャットボットを取り巻く動きは活発化してきた。フェイスブックは「Messenger Platform」、LINEは「Messaging API」を発表するなど、チャットプラットフォーマーが続々とチャットボット開発基盤やAPIを公開している。

チャットボットとは、「チャット」と「ロボット」が組み合わさった言葉で、チャットプラットフォーム上で自動的に会話するプログラムを意味する(図表2)。人間ではなく、ロボットを相手にチャットするわけだ。話し言葉でチャットボットに「今日の天気は?」と聞くと、チャットボットはインターネット上の情報などから天気予報の調べ、「雨です」と答える。

 

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先ほどAI関連技術は3つに大別できると紹介したが、長谷氏によると現在あるチャットボットのほとんどはルールベースだという。「どんなシナリオがありえるか、事前に人が考えておき、場合によっては大量に用意しなければならない」

ただ、働き方改革にチャットボットを活用するのであれば、ルールベースで十分実用になるケースは多い。業務上のやりとりの場合、必要なシナリオは限定されるからだ。

チャットボットを利用して、チャットを業務システムにつなげると、チャットで会話するだけで様々な業務をこなせるようになる。単なるコミュニケーションツールだったチャットが、社員の“相棒”に変身し、社員と業務システムとの距離を近づけてくれるのだ。

ボットが業務システムのアバターに

その一例がSAPの経費精算システム「Concur(コンカー)」だ。海外を中心に広く普及しているビジネスチャット「Slack」用のチャットボットを開発。Concurの画面を開かなくても、秘書に話しかけるようにチャットボットに伝えるだけで経費精算ができる。長谷氏は、「ビジネスシーンにおいて、チャットボットは業務システムのアバター(分身)として活用されていく可能性がある」と言う。

また、ビジネスチャット「SMART Message」とチャットボット開発基盤「SMART BOT」を提供するネオスは、グーグルのクラウド型グループウェア「G Suite」と連携するチャットボットを開発し、社内で試験運用している。

例えば朝の通勤電車の中で、Googleカレンダーと連携するカレンダーボットに「今日の予定は?」と聞くと、すぐにその日の予定をチャットで教えてくれる。また、スプレッドシートで管理している売上実績について知りたいことがあれば、売上管理ボットに「今日の実績は?」などと質問すればいい。チャットボットへの指示で、売上の数字などの修正も可能だ。

現場業務に役立つチャットボットも登場している。外回り営業、工事作業員、店舗スタッフなど、主にフィールドワーカーのコミュニケーションツールとしてビジネスチャット「direct」を提供しているL is Bは、日報ボット、GPS勤怠ボット、現場報告ボット、ToDoボット、タイマーボットなどを提供している。

「日報ボットを活用すると、チャットで会話するだけで日報が作成できてしまう。ホームで電車を待っている1、2分のすきま時間を有効に使って働き方を改革できる」と、L is B 代表取締役社長の横井太輔氏は説明する。

外回りの営業社員は日中、何件もお客様先を訪問し、ヘトヘトに疲れて会社に戻ってから、ようやく日報を書き始めるのが一般的だ。しかしそれでは、翌日の提案準備や営業プランを練る時間が無くなってしまう。チャットボットによって、フィールドワーカーの業務スタイルも一変する。

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L is Bが提供する現場報告ボットの利用イメージ

ノウハウや知識はボットが収集

AI自身もチャットによって進化する。「データがインプットされていないAIは価値がない。データを学習させてこそAIは賢くなる」(横井氏)が、社員とのチャット自体が有用なデータを生み出すからだ。

例えば、L is BはFAQ用チャットボットの機能として、回答に必要なデータがない場合は熟練社員をチャットルームに招待し、代わりに回答してもらえる仕組みを開発した。その回答から学ぶのは、FAQボットに質問した社員だけではない。FAQボットもその回答を学び、次回以降の回答に活かす。熟練社員の頭の中にあるノウハウや知恵、知識を引き出し、会社の共通財産として活用できるようになるのだ。さらに、チャットで収集したデータをもとに、会社固有の業務やワークフローに精通したAIを作り上げることも可能だろう。

AIは、人間より圧倒的に速く情報処理が行える。また、チャットボットを活用し、ノウハウや知恵などの暗黙知をAIに集約することも可能だ。

「AIが仕事を奪う」といった心配をしている場合ではない。今後ますます頼もしくなるAIという“相棒”の力を利用し、どう働き方を改革していくのか。それこそが私たちが考えていくべきことである。


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