【記事】「AI乗合バス」は交通難民の救世主となるか 高齢化率33%の函館市で実証実験、実用化へ

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報道陣に公開されたAIバスのデモ車。大学発ベンチャーがNTTドコモと組んで実用化を狙う

元記事はこちら。

北海道の南端部に位置する函館市。2015年、最大30台のタクシーを使い、延べ300人以上の乗客を動員した実証実験が同市で行われた。狙いは「タクシーの完全自動配車」。その名の通り、人の手を介さず、人工知能(AI)によってタクシーの運行を管理・決定する。

函館市の人口は26万4845人(2017年2月末)。戦前は道内最大の人口を誇ったが、近年は急激な高齢化、人口減少に悩む。65歳以上人口の比率を示す高齢化率は33.2%に達し、この1年間で人口は約3000人強減少した。高齢化の進展で公共交通機関の重要性が高まる一方、路線バスの運行本数削減を余儀なくされている。函館は「既存の公共交通機関への不満の大きい地方都市の典型」(人工知能学会の前会長で、はこだて未来大学副理事長の松原仁教授)だ。

そうした中、松原教授らは実験によってAIによる完全配車が実現可能であることを証明した。そして今、この配車システムを活用した乗合バス、いわゆる「AIバス」が実用化に向けて大詰めを迎えている。

2001年から研究に着手

「AIバスは研究開発の段階を終え、社会に実装する段階に入った」。はこだて未来大学名誉教授で東京大学・先端人工知能学教育寄付講座の特任教授の中島(なかしま)秀之氏は感慨深そうに語る。

中島教授がバス配車シミュレーションの研究に着手したのは2001年、産業技術総合研究所(産総研)に所属していた時だ。

「『へき地ではデマンドバス(乗り合いバス)がいいが、都市部では従来型の路線バスのほうが効率はいい』というのが常識だが、果たしてそうだろうか」。研究のきっかけは、こうした素朴な疑問だった。

中島教授はコンピューターによるシミュレーションで、この常識が誤りであることを実証する。乗りたい人がどこにいるかを正確に知ることができれば、都市部の方が人口の多い分、乗り合いバスは路線バス以上に輸送効率を上げられる。その結果、シミュレーション上、燃料の総消費量を抑えることが出来るのだ。

はこだて未来大学の学長に就任した2004年。中島教授は新天地で、公共交通機関がうまく機能していない現実を目の当たりにする。「全国的な高齢化を見据えると、高齢化が急速に進む函館市で実験することにこそ意義がある」。そう思いさだめた中島教授は科学技術振興機構(JST)からの研究助成を受けて、函館市で実証実験を重ねてきたという。

AIバスの実用化のためにベンチャー企業「未来シェア」を2016年7月に設立した。はこだて未来大学にとって初めての大学発ベンチャーだ。東大の兼業規定の関係から、未来シェアで中島教授は代表権のない取締役会長となり、代表取締役社長は同大学副理事長の松原教授が就いた。

真骨頂は完全自動配車

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専用アプリでバスを呼ぶと、運行情報が表示される

AIバスでは、まず専用アプリをダウンロード。乗りたい人がスマートフォンでバスを呼ぶ。乗りたい場所(乗車位置)と降りたい場所(降車位置)を地図上で指定すると、「配車が完了しました」「2号車が配車されます」「乗車予定時刻は何時何分〜何時何分」「目的地到着は何時何分頃」などと表示される。

ここまでなら、すでに実用化されているタクシーの配車アプリと大きな違いはない。AIバスの真骨頂はここからである。呼ばれたバスが乗車位置に向かう途中、別の乗客から「乗りたい」との入力があり、そのバスに乗せた方が最も効率がいい場合は、その乗客を乗せるためにやや寄り道をするのだ。「10分以内の誤差で乗車させられるなら、別の乗客を乗せるために新たな乗車位置に向かう」(松原教授)のだという。

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運転手はナビゲーションの表示に従って、乗客を乗せるために「寄り道」もする

この「最も効率がいい配車」を計算するのがスマート・アクセス・ビークルの頭文字をとった SAVという配車計算アルゴリズムだ。これにクラウドプラットフォーム(仮想サーバーを用いた情報通信基盤)を組み合わせる。人工知能の重要な機能である機械学習と、リアルタイムで情報を処理する通信基盤を融合することで、最も効率の良いルートを探し当てることができる。このSAVは、既存のタクシーのように人が配車を管理・決定するのではなく、人工知能によって完全自動で配車するのがミソだ。

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3月9日、NTTドコモとともに都内で行った発表会。一番左がはこだて未来大学の松原仁教授、その隣が中島秀之名誉学長

函館の実証実験がタクシーだったように、このSAVによる完全自動配車は既存のタクシー配車の自動化や、「乗り合いタクシー」の実現も可能だ。さらに言えば、米UBERのようなカーシェアの仕組みも、SAVで運用することができるという。さらに、「乗り合いタクシー、バス、カーシェアをSAVで全て配車することも可能だ」と松原教授は断言する。

NTTドコモと共同開発

先述の通り、中島教授のシミュレーションによれば、人口密集地ほど乗車効率が上がる。そうだとすれば、AIバスを導入して最も効率が上がるのは実は東京都である。

ただ「東京は公共交通機関が発達しているので、乗車需要と交通機関の供給のギャップが少ない」(松原教授)。やはり公共交通機関に対する不満が多いのは函館市のような地方の都市部だと、松原教授はにらんでいる。

「路線バスは9割が赤字」と言われ、路線の縮小・廃止が全国各地で相次いでいる。バス離れが起きている一方、バス以外に交通手段のない高齢者は交通難民と化している。未来シェアのAIバスは、こうした負の連鎖を止めるきっかけになる可能性がある。

3月9日にはAIバスの実現に向けて、NTTドコモと共同開発で基本合意した。ドコモのリアルタイム移動需要予測技術を用いて、2018年度中のAIバス実現を目指す。最初にサービスを開始する都市は未定だが、「函館市のような人口20万から30万人規模の地方都市がいい」と松原教授は言う。

究極的には、ドコモの需要予測技術を応用することで、スマホで呼ばなくても路線バスが需要を予測してやってくる未来の実現を目指す。ドコモと組むことでAIバスはどこまで進化するだろうか。

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