【記事】AI導入で労働の価値はどう変わるのか

富国生命の保険金査定業務でもAIが活躍

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元記事はこちら。

「あれって、いったいどういう仕組みなんですかね」

外資系生命保険会社の中堅社員が、筆者にそのように尋ねてきた。

「あれ」とは、中堅生保の富国生命保険が保険金の支払い査定においてAI(人工知能)を活用するという動きである。富国生命の担当者も「最近、同業の知り合いからのお誘いが多くて……」と苦笑するほど、AI導入のニュースは業界内の反響が大きかったようだ。

富国生命は今年1月から、日本アイ・ビー・エムのAI「ワトソン」を導入し、保険金の支払い査定業務での活用を始めた。簡単に言うと、契約者が医療機関から受け取った紙の診断書をワトソンが自動的に読み込み、デジタルデータ化するものだ。従来、人間が紙の診断書を読み込み一つ一つパソコンで入力していた作業が、大幅に省力化される。

AIについては、日本生命保険が顧客情報をAIに読み込ませ、営業職員の持つタブレット端末にアドバイスを表示させる仕組みを今年4月から導入する。コールセンターでの受け答えに活用することが検討されるなど、生保業界はAI活用の幕開けといえる状況になっている。

富国生命の件は当初、AIを活用して業務を効率化することで査定部門の人員を約3割削減する、と一部報道で伝えられた。「AIを活用したリストラ」というストーリーは新鮮で、俗耳に入りやすい。しかし、その実態はそれほど単純な話ではないようだ。

 

ワトソンと人間との組み合わせ

同社では、保険金支払いの査定業務を約130人の女性職員が担当している。総合職の正社員もいれば、有期契約の事務職員や派遣契約の社員もいる。保険契約者から保険金支払いを請求されたときに、保険金支払いの請求書と医師の診断書を基に、病気や傷害の判別・分類を行い、保険金の給付の可否を判断する重要な仕事だ。

この仕事が大きな転換点を迎えたきっかけは、2000年代に起きた保険金の不払い問題だった。支払い漏れを防ぐべく、生保各社は急きょ査定部門の人員を増強。富国生命も、従来40人前後だったのをピーク時には4倍近くまで増やした。

しかし、派遣社員を中心とした急速な人員増強策が裏目に出る。労働者派遣法の改正で、同一の事業所へ派遣できる期間は原則3年となり、その後直接雇用に切り替えても、1年更新で最長6年までしか雇用できない。せっかく習熟したスキルが途切れないようにするには正社員として採用すればいいが、人事部門の判断としては難しい。同社では2017年3月末には30人強の派遣社員が契約期限を迎えようとしていた。そこで思いついたのが、苦情処理の分類で使っていたワトソンを査定業務にも生かせないかという発想だった。

同社の八田高・保険金部長は「ワトソンの精度は90%だが、人間によるチェックと組み合わせれば、十分実用に堪える」と話す。

ワトソン導入前には、人間Aと人間Bが入力した診断書データを突き合わせ、違いが出た場合には人間Cがそれを修正していた。現在はワトソンが人間Bに取って代わったが、人間Cによるチェックは残っている。ワトソンも人間も間違うことがあるためだ。

たとえば、診断書の自由記載欄にたまたま記載された「入院」の文字をワトソンが読み取り、本当は入院していないのに「入院した」と判断してしまうことがある。その場合は、人間Cが自由記載欄の記述から正しい判断を導き出す。

人間の仕事はもっと意義を感じられるものに

保険金の不払い問題は今でも保険各社の経営や運営に大きな影を投げかけている。再発防止のため、各社はさまざまな取り組みを行ってきた。多重チェックや給付金のワークフローシステムの導入、検証を行う支払い監査室の新設、契約者の案内を行う案内チームの新設……。多くの人手とコストを割いて対策に努めている。

だが、そうした仕事の大半は、地味ながら多くの人手を伴う根気のいる仕事だ。富国生命も、ワトソン導入前は女性派遣社員の人手をかけて、コツコツと査定業務を進めていた。

「査定の仕事では、ある人が入力したデータを、ほかの人がもう一度見て確かめる。でも、やっている人は、私の仕事はなんて意味のない仕事なの、という無力感や疲労感を覚えている。しかしワトソン導入後は、(先の例でいうと)Cさんの仕事は人間でなければできないと意識されるようになった。貢献しているという実感が仕事には必要だ」

前出の八田部長はそのように話す。

富国生命の例からいえるのは、AIは人間から仕事を奪うのではなく、むしろ逆に、手間ばかりかかる無味乾燥で退屈な仕事から人間を解放するということではなかろうか。

こうした状況について、アキハバラニュース・エディターのリノ・J・ティブキー氏は次のように、秀逸な論評を行っている。

「業務に使われるロボットや人工知能(AI)ソフトは、いわゆる3D(汚い、危険、屈辱的)仕事を割り当てられることが多い。最初の二つはたぶん富国生命で給付金支払い査定を行ってきた社員には当てはまらないが、最後のDは解釈の余地がある。確かに、保険金支払いに必要な無数のデータを照合したり、分析したりといった作業を楽しんでやっている社員がいるかもしれないが、ほとんどの人にとっては、非効率な文書業務と反復作業が多い退屈な仕事ではないかと思われる」(編集部注:3Dはdirty、 dangerous 、demeaning)

人間と機械をめぐる古くて新しい問い

2015年に邦訳版が出版されたエリック・ブリニョルフソンらの『ザ・セカンド・マシン・エイジ』は、蒸気機関の登場=ファースト・マシン・エイジ(第一機械時代)が人類の急激かつ持続的な飛躍をもたらし、いまや人類はコンピュータをはじめとするデジタル機器の進化=セカンド・マシン・エイジ(第二機械時代)を迎えている、と説いた。

19世紀に英国で起きたラッダイト運動の歴史を振り返るまでもなく、機械や技術の進歩が人間の仕事を奪うのではないか、という人間の恐怖はおなじみのものだ。AI=技術進歩は人間から仕事を奪うのか。この古くて新しい問いは、セカンド・マシン・エイジにおいてそれほど単純ではないことを示している。

 

 

 

 

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